2020年5月9日土曜日

4390 ips  国際海底ケーブルと海外通信事業

1 はじめに
 
 コロナで自粛期間が続いている。
 日本は自粛止まりだが、フィリピンはロックダウン(正式にはECQ(強化されたコミュニティ検疫)と呼ぶ)により、3月17日から5月15日まで、外出禁止となっている。
 これによって、ipsの美容医療の病院事業が2カ月間閉鎖となっている。また、外出禁止ということで、フィリピン国内通信事業の新規営業獲得はままならない状態であろう。
 もっとも、ipsのメインは通信事業であり、通信事業自体は止まることなくサービスを提供し続けている。また、外出禁止により通信の需要が大きく高まっているため、追加の発注もあり売上に加わっているようである。

 そのような中、5月7日にIRが出た。

「国際海底ケーブルの使用権の取得」「使用権の一部提供に伴う収益計上」に関するお知らせである。
 リンクはこちら
 ↓↓
 固定資産の取得(国際海底ケーブルの使用権の取得)及び当該使用権の一部提供に伴う収益計上に関するお知らせ

 収益計上という言葉で、「何かの売上があがるんだな」ということはわかるとおもうが、国際海底ケーブルの使用権の取得と言われても「??」な人も多いと思う。私もipsのIRに質問して回答をもらうまで勘違いしていた。
 今日は、できるだけ噛み砕いて、分かりやすく説明してみたい。

2 海外通信事業のお話
⑴まずセグメントを分けて間違えないようにしよう。
 ipsには、①海外通信事業②フィリピン国内通信事業③日本国内通信事業④在留フィリピン人関連事業⑤医療・美容事業の5つがあるが、 
 今回のIRは、基本的に①海外通信事業のお話である。ちょっと②のフィリピン国内通信事業も絡んでくる。
 
⑵海外通信事業は、基本的にフィリピンのケーブルテレビ向けにマニラー香港間の回線をリースして収益を上げている。
 日本で言うジェイコムのようなケーブルテレビに対して、ケーブルテレビの顧客がインターネットが使えるように他から回線を仕入れて、それを転貸しているような感じである。
 これまで一定の帯域量について仕入れて、これをケーブルテレビに転貸して、インターネットを使う量が増えて足りなくなったらまた仕入れて転貸して、を繰り返して売上を上げてきた。


 ちょっとイメージがつきにくいかもしれないが、
 要するに「ケーブルテレビがインターネットを使えるように、回線を転貸して売上を上げている」というイメージである。
 
 そして、直近の海外通信事業の実績をみると



 3Qまでで、売上が9億5100万円、利益が3億5900万円。
 利益率は高いものの、徐々に売上が落ちている状況であった。
 売上をこれから伸ばすために、戦略として地方に目を向け、ミンダナオ島にサービスを提供しようと今工事が進んでいることは以前ブログに書いたとおりである。
 
⑶ ビッグチェンジ!
 今回の国際海底ケーブルのIRU(破棄しえない使用権)の取得は、地方へ進出する戦略とは全く別の観点のものである。
 今回の海底ケーブル取得により、ビジネスモデルが大きく変わり、今まで大手2事業者の属国のような立場であったipsが大きく立場を変える可能性を生み出した。
 

3 何が大きく変わるのか
⑴ 私の勘違い
 まず、今回私が勘違いしていた点を挙げる。
 なぜならみんなも多分勘違いしていると思うからである。

 私は、海外通信事業のビジネスモデルが、基本的に「転貸」なので、今回のIRを読んで最初に

「ある程度大きなの帯域量のある回線を追加で仕入れることができたんだな。これでまたケーブルテレビに足りなくなった部分を売って、売上を作っていくんだな。期限が切れてきそうな古くなってきたIRUもあるし。」
 
 と思った。
 
 しかし、違った。良い意味で裏切られた。

⑵ 仕入れて転貸するのビジネスモデル自体が変わる
 今回、オーストラリア最大の通信事業者Telstra(テルストラ)から買ったのは、「海底ケーブルのIRU」である。
 


  ポイントは、↑の図にあるダークファイバー調達という記載。
  
  光ファイバーじゃなくて、ダークファイバー??
  ダークファイバーとは
  ↑リンク先にあるように、ダークファイバーは「光信号の波長やビットレートを利用者が自由に決められる」。
  今回、伝送装置も新たに取得した。
  
  要するに、今回、伝送装置と海底ケーブルによって、ipsは
 「通信容量を自分で作り出せるようになった」
  のである。そして、国内のダークファイバーを大手通信事業者から調達することで、フィリピンに供給することが可能になった。
  ということは、これからは、基本的に「仕入れなくてよい」のである。
  仕入れがなくなると、利益率が上がるのは簡単に理解できるであろう。

⑶ 立場が強くなる 
  ipsは、国際海底ケーブルの取得により通信の生成能力を身につけた。
  これは本当に大きい。
  なぜなら、この生成能力については、今のところフィリピンの大手通信事業者2社(PLDT,GLOBE)しか持っていないからである。
  それがゆえに、今まで大手通信事業者の下っ端みたいな位置づけだったものが、これから価格競争のトリガーを引くことができる事業者として、立場が今より強くなる。 
  ↓の開示の「国際データ通信サービスを自社設備で提供する」には、大きな意味があるのである。

 

4 海底ケーブルの取得額は??
 開示資料によれば、
「連結純資産額の30%を超過する取得価額」とある。

 ipsの直前の連結純資産額は37億なので、その30%以上なら、だいたい11億くらいかなあと思った人もいるかもしれない。
 ただ、この「30%を超過する取得価額」という記載の仕方は、適時開示のルールである。例えば純資産額の50%、70%、90%で取得したときでも、金額が明示できない場合には「30%を超過する取得価額」と記載する。
 取得価額は不明だが、あまり「30%以上」にはこだわらない方がよいかもしれない。
 もちろん30%でもすごいのだが、個人的にはもっとかかっているような気がするからだ。
 

5 これからの戦略
 今のところ、3つの用途が記載されている。
⑴ 大口需要家に対するIRU条件での通信回線のリース

 IRU条件でのとあるので、リースというより、今回取得した海底ケーブルの切り売りみたいなイメージである。
 大口需要家とあるので、かなり大きな事業者だと思う。切り売りして、取得するための投資額を早く回収することを計画している。
 どの位の規模なのかはまだ不明だが、5月15日の決算でガイダンスが出れば、ある程度明らかになると思うので楽しみに待ちたい。

⑵ 法人向けインターネット接続サービスの提供に必要な回線の切り替え
 これはフィリピン国内通信事業にも通じるところである。
 十分な通信容量をもちながら、より高速な通信環境を提供できるようになれば、フィリピン国内通信事業の競争力、売上も伸びてくるであろう。


⑶ ケーブルテレビ事業者向け国際通信回線の切り替え
 回線を切り替えることで、より通信も高速で大容量となる。
 海外通信事業の売上の底上げが期待できる。


6 最後に 
 目まぐるしく変わる通信業界において、また一つipsから、大きな成長を感じる開示がでた。
 企業理念の「OPEN DOOR」が私は好きだが、常に新しいものを開拓する姿勢をひしひしと感じている。
 
 アフターコロナのフィリピンでは、テレワークの増加をはじめ、これまでちゃんと整備されていなかったインターネットの整備を含めて、通信に大きな需要がやってくると予想している。
 
 株価はコロナの影響で一旦激しく落ち込んだが、引き続き応援していきたい。