第1 はじめに
覚えているだろうか?
昨年5月15日、本決算資料で出た
「売上200億、経常利益50億は5年での実現を目指す」という記述を。
あれから、一年経った。
今年の5月15日発表された今期の予想ガイダンスは以下のとおりである。
見よ、このコロナの影響の中で、激動するフィリピンの中で奮闘するipsの姿を。
目標に向かって先はまだ遠いが、それでも前年比でみると凄まじい成長である。
今日は決算を振り返るとともに、今期予想の数字の中身と、ipsの戦略をできるだけわかりやすく説明してみたい。
第2 前期決算の振り返り
前期決算の数字は↓のとおりである。
結果として、全てにおいてプラス成長であることはもちろんとして、売上と営利は二桁成長を実現し、純利益については通期予想も超えた。
前期は、火事があったり、海外通信事業でミンダナオ島で回線の敷設が遅れたり、在留フィリピン事業が足を引っ張ったり、と色々とハプニングもあったものの、その他の事業の成長でカバーしながら二桁成長を実現した。
十分評価してよい内容であろう。
第3 今期の予想について
そして、今期である。
今回も、いつものように、大谷シートを使って、新しいキーワードとともに整理してみた。セクター毎に分析してみたい。
赤く表示されているところが、トピックスというか、前回より変わったところである(あと在留フィリピンで消したものが少々)。
1 海外通信事業
今期の目玉である。
売上は1271⇒3100 (+143.8%)
営利は479 ⇒885 (+84.7%)
なぜ、こんなに売上と営利が伸びたのか?
① 国際海底ケーブル
これは5月7日に発表された国際海底ケーブルによるものが大きい。
私の前回のブログでも書いたが、海底ケーブルに関しては、皆が想定しているよりも、より大きな投資であることが強く予想される。個人的には30億を超えているのではないかと推測しているところである。
今回、ipsの今期予想をみて、「あれ?上期の売上が多くて、下期の売上が少ないのはおかしくないか?もしかして一時的な売上でもとに戻るのではないか?」と不安を抱いた人もいるかもしれない。
しかし、資料によれば、「契約が確実に見込める案件の一部について、使用権の代金の一部を受領することを見込んでいることによります。(当社では、入金があった分を売上に計上する方針であるため)」とのことである。安心してほしい。
目まぐるしく変わるフィリピンでは工事の進捗が遅れたりすることは日常茶飯事である。その中で入金や契約が思った以上に遅れることもある。それゆえに、確実に見込めるものを計上したのが今期予想である。
海底ケーブルの取得により、ipsでは「
通信設備のシェアリング」というスキームで新たなビジネスが始まった。詳細は前回の私のブログを見てほしい。⇒
ブログ
今後の計画として
これをみると、私にはDito(チャイナテレコム)やgoogleといった企業が思い浮かぶが、複数の大手事業者が今後顧客となる可能性があり、提案をかけていく計画であることがわかる。
とにかく、非常に楽しみである。
② フィリピン国内の海底ケーブル
さらにさらに、今回、決算短信では、フィリピン国内を結ぶ海底ケーブルの敷設を検討され、調査費用を1億予定していることが発表された。
5G構想と同じくスケールの大きな話であるが、また一つ、新しい種がまかれている。
こちらは長い目で見てゆっくり待とう。
③ ミンダナオの2300キロネットワーク
海外通信事業といえば、もう一つの戦略、地方への進出である。
もともとはこちらが売上向上の本命であった。
もともと前期の4Qで完成予定であったが、工事の遅れにより間に合わなかった。
コロナの影響も大きいようであるが、リングの完成に目途が着いたようである。
今期は、ミンダナオの2300キロにも及ぶ自社ネットワークの工事の進捗にも注目である。
コロナの影響はあったと思うが、徐々に進んでいるようである。こちらも完成すれば発表されると思うので、楽しみに待ちたい。
2 フィリピン国内通信事業
売上 前期864⇒今期1550(+79.3%)
営利 前期73 ⇒今期330 (+350.3%)
もともと売上はすさまじい伸びと成長であったが、とうとう、利益レベルでもipsに貢献し始めた。
① ストックビジネス
フィリピン国内通信事業は、法人向けのブロードバンドサービスで、法人と契約してインターネットの通信量をもらうストックビジネスである。
大手通信事業者2社のネット料金が高いので、その半額ぐらいの料金でかつ高品質でネットを提供して営業しまわっているのをイメージする感じである。
コロナの影響を2カ月受け、新規営業はままならない状態になっているであろう。ただし、ストックビジネスがゆえに売上がなくなることはないので、スピードの問題はあれどもあまり心配していない。
② 5G
さらに、楽しみなのが5Gである。
前にも述べたが、今年の1月24日、3.6~3.8GHzの周波数帯の割り当てを受けた。
スペインでは262億というすさまじい金額で落札されたこの周波数帯をタダでフィリピンから割り当てを受けた。
日本でこの部分の割り当てを受けたのは、ドコモとKDDIである。時価総額でいえば、地球とミジンコの差である。
どうも、この5Gについては、あまりまだ市場から評価されていない。
数字が出ていない段階だからであろうか。
ただ、この5Gには、WiFi,5G基地局シェアリング構想、ラストワンマイル、そして携帯事業者への参入構想という具体的なビジネスの計画があり、まさにフィリピンのソフトバンクになるのではないかと思わせる壮大な計画がある。
ゆっくりと花開くのを待ちたい。
3 国内通信事業
売上 3303⇒3400(+2.9%)
営利 338 ⇒380 (+12.1%)
国内通信事業は、日本国内の通信事業である。
利益率はそれほどではないが、売上数字が全セクターの中で一番大きい。前期は売上+14%、営利+26%とipsの数字を引っ張っていった。
いつも予想レベルではあまり伸びが期待されていないのに、なぜか結果を出すというセクターである。
コロナの影響で、テレワークが増えて通信・通話トラフィックが増加して追い風である。
今期もなんだかんだで頑張ってほしい。
4 在留フィリピン人関連事業
売上 196⇒180(-8.4%)
営利 -89 ⇒5 (黒転)
日本国内に居住しているフィリピン人を対象にした部門である。
介護施設などへの紹介を経て、仲介手数料が売上となる。
在留フィリピン人関連事業については、赤字が拡大してipsの足を引っ張っていたが、今回、フリーペーパーの終了などいくつかの事業が終了した。
売上が変わらないのに、営業利益が増えるのは、事業を縮小しているからに他ならない。
個人的には、ipsを昔から支えてきた事業ではあるが、時代に合わなくなってきている事業でもあり、今後の発展は難しいのではないかと思っていた。
大きく伸びている部門により多くの資源を割いて、赤字部門は縮小する。これは前向きの撤退である。
5 医療・美容事業
売上 872⇒670(-23.2%)
営利 268⇒100(-62.7%)
フィリピンではレーシックでナンバー1の実績を誇る。眼科と美容外科の病院を運営している。
悔しいが、コロナのロックダウンにより、2カ月間閉院していた。
医療美容事業は3カ月遅れの計上のため、3月休業分は1Qに、4~5月休業分は2Qに大きく影響する。
その影響を踏まえてのこの数字である。
医療・美容事業はipsの事業の中でも大きく伸び続けていた事業であり、今回さらなる成長のために3院目をボニファシオグローバルシティにオープンした。
オープンした直後のロックダウンであったために影響をもろに受けた形になったのである。
ただし、今期はコロナ休業でやむを得ないとしても来期は絶対に今期よりも大幅に良い。
今はまだフィリピンでは予防医療にはあまり注目されていない。
そこで、日本から人間ドッグを今後導入する予定であることが昨年発表された。
予防医療の文化をフィリピンに根付かせることができれば、フィリピン人の健康寿命にも大きく貢献できる。
この部門だけで、フィリピンで上場準備を始めることも決定した。
コロナからの復帰を楽しみに待ちたい。
第4 最後に
フィリピンは、著しく経済が成長している一方で、ハプニングも起こる。
決算短信を読んで「なんでこんなにリスク事項が多いの??」と思った人もいるかもしれないが、それが魅力的な市場であるフィリピンでビジネスをすることのリスクである。
いつ、何が起こるか分からないけれども、大きく成長している。
その中で「通信インフラ」という、人々の暮らしに直結する大きな業界に挑んでいるのがipsである。
特にフィリピンの地方におけるインターネットの整備は、住民の生活水準を切り上げ、貧困を救う手助けにもなり、大きな社会的意義がある。
ipsがわたりあっているのは、時価総額5000億円以上のPLDTやGlobeである。
わずか時価総額279億、小さな会社が大きな市場で奮闘している姿には夢がある。
今回の決算では、国際海底ケーブルの部分にスポットが当たって注目を集めたが、夢の種はたくさんまかれている。
是非、今回ipsに興味をもった機関投資家と個人には、これから長い目でみて応援してほしい。